顔も匂いも背丈も知らないひいひいおばあちゃん
先日、祖父母が墓参りに行きたいということで運転手役を買って出たわけだが、行先はいつものお墓ではなく、祖父の里にあるお墓。
お墓まいりにそこへ赴くのは初めて。
僕は嘗て祖父の里でビーグル犬のジョンと運命的な出会いをし、その犬を欲しがりまくり、おじさん(祖父の兄)に渋々、
「ジョンに子供ができたらやるき。待っちょけ。」
と言わしめ、実際その何年後か後、すっかり忘れたころ律義に連絡をくれたおじさんからビーグル犬”ラッキー”を授かった男である。
ラッキーな男である。
まあそんなこんなで思い入れが全くない土地という訳ではない。
それから幾年か経った今ではそのおじさんもあっちの世界にいってしまってる。まあ、多分あの人は元気だ。
着いてみると、ジョンに惚れたあの時と同じような光景が飛び込んできた。
そして、けたたましい犬の鳴き声もあの時と同じ。
凄まじい既視感でタイムスリップしたのかなとあるはずもないことを思ったりした。
猟犬であるビーグルはとにかく声がよく通るんだ。
実際はジョンのおじさんの息子にあたるおじさんが…ややこしいのでジョンおじさんJr.が一人暮らしは寂しからと5匹の犬(恐らくビーグルではない)と暮らしていたのだった。
ジョンおじさんJr.への挨拶も程々に墓参りへ向かった。
足腰が弱い祖父は墓地下でジョンおじさんJr.と話ながら待っていた。
祖母と僕と弟で墓前に手を合わせた。
ふと、傍らの墓誌に目をやると、僕のひいひいおばあちゃんに当たる人の名前が目に飛び込んできた。
最近なんにでも運命感じちゃう僕はこれまたビビッと来た。
どん底に沈んだ時にも絶対僕を見捨てなかったものの名がそこにあった。
そう僕が顔も匂いも背丈も知らないひいひいおばあちゃんの名前は
歌
といった。
気づけば犬たちは静まり返っていた。